thu, sep 17, 2015

インテリアデザイナーのトミナガは胡蝶蘭を嫌っている。
ショップの新装開店時にいつも玄関先にならぶあのコチョウランを。
もはや花の色やかたちや香りなどはどうでもいい。開店祝いにはコチョウラン、高価な花コチョウラン、これを送っておけば文句なしのコチョウラン。記号と化したコチョウランのならぶ様は、祝意の集まりというより、むしろシガラミの数々にしかトミナガにはみえない。
そんなデザイナーの心持ちをよく知る親しい店主などは、トミナガが訪れる際にはわざわざコチョウランをバックヤードに仕舞い込むことすらあり、偏屈者を恐縮させた。

トミナガはあるとき、友人の建築家が設計した家を訪ねた。
女性の主がひとりで住む瀟洒な家。キッチンの隅に一輪のコチョウランをみつけた。たった一輪の。
竣工時に知り合いから贈られた大量のコチョウランをすべて枯らしたあと、種から育てて開花させたのだという。
「これで1万円儲かったわ。はははー」
白髪の女性は金持ちに似合わぬことを言い放ち、快活に笑った。
白い2枚の花弁とそれを背後から支えるような3枚の萼片、そしてほのかに黄色みがかった中央の唇弁に見入り、トミナガははじめてこの花を美しいと感じた。