sun, oct 11, 2015

遠縁の葬儀に参列したカズオは故人の足元に花を手向けたあと、後列に立ち位置を定め、時間が過ぎるのを神妙に待った。
そのうち、棺を囲むひとたちが故人に話しかける声が聞こえはじめた。死んだ者はここにはいない。どこにもいない。声をかけても届かない。届くのは、自分自身と会葬者の耳にだけ。その思いを自分自身と会葬者の耳に聞こえるように声にするのは、たぶん、この悲しみを分かち合い、共に乗り越えようとするからなのだろう、と五十を過ぎたカズオは理解している。
死とは生きている者のものなのだ。では死者自身はどこにいるのか。そんなことをぼんやり考えていると、会葬者の嗚咽が音量が徐々に高まってきた。
そのとき、カズオの背後で若い母親に抱かれた幼児がまるで発音の練習をするかのように覚えたばかりの言葉を声にした。「モーオワッター?モーオワッター?」